小郡の犬飼さん 七夕ぼん-おごおり探検隊

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inu-02.jpg ある日、彦が牛にするように、スキ(犂)をアカの体につけてみると、アカは勢いよく田の中を進んで土をほりかえしていく。後でスキをおさえて歩く彦をひきずるぐらいだ。彦の持ってる少しの田んぼを、あっというまに耕(たがや)してしまった。これを見ていた村の人があきれて、
「これじゃ牛はいらん。彦は牛の代わりに犬を飼うとる。牛飼いじゃのうて、犬飼いじゃ。」
 それで、
「おおい、犬飼いよう。」
と彦をよぶと、彦はウハウハ喜んで、
「ほうい。」
と返事した。みんなが彦を犬飼いと呼んだ。
 そんな夏の暑い日のことだった。彦とアカが宝満川の川原を歩いていると、石の上に紫色の布が落ちていた。彦が手にとると、帯のようにほそ長い布で、軽くてうすくてトンボの羽のようにすきとおってキラキラしてる。いいにおいが布からたちのぼって、彦はぼうっとなってしまった。アカもフンフンとにおいをかいでよだれをたらしとる。彦は何も考えられないで、それをもって家に帰った。
 その日一日中、彦もアカも、ぼうっと布を見ていた。
 次の日には古い箱にその布を入れて、油紙やむしろにつつみこんで、物置の奥の奥にしまいこんだ。
 次の次の朝のこと。彦がおきて家の外に出ると、戸口にうなだれて若い女が立っていた。青ざめて、いまにも倒れそうだ。